グレッグ・ジョズウィアック氏(Apple ワールドワイド・マーケティング上級副社長)は、日本で2025年12月18日施行予定の「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(通称「スマホ新法」)に対し、強い懸念を表明しています。同氏は特に、EUで導入された「デジタル市場法(DMA)」下での過剰な規制が引き起こした数々の問題を警鐘とし、日本にも同様の誤りが及ぶ可能性を指摘しています。
まず、ジョズウィアック氏は、EUではAppleが申請していた「通知機能」「近接ペアリング」「ファイル転送」「自動Wi-Fi接続」「自動オーディオ切り替え」など5件の免除が認められず、これら機能を他社にも無償公開せよという判断が下された点を批判しています。こうした内容は、Appleにとってコアな統合体験を支える重要技術であり、無条件で開放を強いられることへの抵抗感が根底にあります。
特に問題とされるのは「プライバシーとセキュリティ」の観点です。DMAの下では、ユーザーが接続したWi-Fiネットワーク履歴や通知内容といった機密性の高い情報を他社に提供するよう強制される可能性がある――という指摘をジョズウィアック氏は重視しています。こうした設計は、Appleが長年ユーザー端末の“孤立性”を重視してきた設計哲学と矛盾する、重大なリスクを含むという主張です。
そして、最も根本的な懸念として挙げられるのが「知的財産権の扱い」です。ジョズウィアック氏は、Appleが独自開発した技術を他社に無償公開する義務を負うことは、“ただ乗り(フリーライド)”を許すものであり、公正競争とは言えないと主張します。技術を開発するインセンティブが削がれれば、イノベーションが停滞するという主張でもあります。
こうした背景を踏まえ、ジョズウィアック氏は「日本のスマホ新法が、EUの失敗例をなぞるものとならないよう、適用運用面で慎重に設計すべきだ」と強く訴えています。条文だけでは見えにくい“現場での運用解釈”が、最終的な影響を左右するというメッセージが、記事全体に通底していると言えるでしょう。
『EUの過剰な規制』とは何か
本記事中で引用された“EUの過剰な規制”とは、主に デジタル市場法(Digital Markets Act, DMA) を指しています。DMAは、市場支配力の強いプラットフォーマー(例えばApple, Googleなど)に対し、他社との相互運用性やプラットフォームの開放性、独自機能の公開義務などを課す規則です。Appleにとって統合性・差別化の戦略を制約しかねないとして、同社はこの法律の適用と運用に強く反発しています。



